チェーンソースターターの修理

20190406 

日曜の午後のことである。チェーンソーのスターターを引くと歯飛びしたような音がし、

かまわず引くと手ごたえが軽くなりクランクが回せなくなった。

やったな。と思いすぐにカバーを開くとクランクにかかるツメが割れてケース内に転がっていた。

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中古で買ったとはいえまだ大して使っていない。まだ引退してもらっては困る。

とりあえず、プラスチック接着の定番(個人的に)タミヤセメントで接着する。

平日はまともに作業できるような時間には帰れないので、タミヤセメントには丸五日の乾燥時間を与える。

二週目

翌週末、十分すぎる乾燥時間を経た部品を組み立て、スターターを引くとなんの粘りも見せずにツメは接着する前の状態を再現した。

またしてもケーㇲを開け、割れた部品をながめてみると、

タミヤセメントはプラモデルに使用したときを見る限り母材を溶かして接着するイメージだが、断面には何の変化もない。

溶けているなら断面のざらざらした表面が多少丸くなっていてもよさそうだが、一切そんな様子はない。

この接着剤ではこうかはいまひとつのようだ。

 

部品は3Dプリンタで作れそうな形状なので、作ってみることにする。

壊れた部品を外す。こういうばねとかゼンマイの入っている部品はうかつに外すとメーカーの高度な組み立て技術によって巻き上げられたバネがジャッと飛び出して二度と戻せなくなるという経験を何度かしているのであまり外したくなかったが、このままではどうにもならないので外した。幸い、バネが飛び出すことはなかった。

(後で何気なく部品を引っ張ったらゼンマイが飛び出した。治具を作り、クランプとバイスプライヤ、一時間を費やして元に戻すはめになった。)

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中心の部品の円に内接した金属の丸まった部分に爪の部品がはまる。

この金属はゼンマイで、ゼンマイを介してクランクにトルクを伝えることで手ごたえを幾分か軽くしてくれる工夫をしてあるらしい。

キックバックキックスターターで言うケッチン)のショックも防止してくれそうだ。

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フライホイールのファン部分。今回壊れた爪の部品は、中心の二つの水滴型のプラスチックパーツを介してスターターのクランクにトルクを伝える。

このパーツはバネで揺動するため、始動動作が終わりフライホイールの回転速度が上回れば爪の背中をなでるように動き、ワンウェイクラッチとして動作する。

もしかしたら遠心力で広がって爪に触れてすらいなくなるのかもしれない。

 

 外した部品をノギスで寸法を測りFusion360モデリングし、3Dプリンタにかける。

元の部品はついでにKDXの割れたカウルを接着するときに余ったプラスチック用接着剤でも接着しておいた。

しばらくすると、3Dプリンタの部品が出来上がった。

出来上がりはわりといい。サポートをはがす作業からもそれなりの強度があることを感じられる。

オリジナル部品と比較してみる。

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...

一連の作業の中で、モデルと現物を見比べるという作業を一度もしなかったというのか。

せめて、次の完成度を少しでも上げるために役立てようと、寸法誤差を測り寸法をずらしてから作りなおした。

また、ベッドなどの都合でワークの高さ寸法が低くなってしまっているのでゲタを噛ませたモデルにしておいた。

ベッドやラフトがモデルに影響を与えない高さまで底上げして造形し、不要な部分は後で切り落とす。

 三週目

また次の週、別の接着剤でくっつけた部品を組み込んで、スターターを引いてみると、数回は耐えたがほどなくしてまた壊れた。

 

モデリングしなおした3Dプリンタの部品を出力した。

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ゲタ部分がうまくラフトの反りをよけた高さになってくれた。

材質はABSのため、環境による劣化はあまり心配しなくていいはずだ。

 

センターの軸だけはモデルを大きめに作ってガバガバになっては困るのでマイナスになるような寸法を設定し、その部分のみドリルで追加工した。

 

ABSならばとタミヤ工作キット付属のグリスを塗って組み立て、問題なくエンジンをかけることができた。

古い3Dプリンタだが使い方がはまればちゃんとしたものができる。

スーパーチャージャー付き2ストロークエンジン?

このチェーンソーはマキタの2ストエンジンのチェーンソーだが、

吸気側が面白い構造になっていた。

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さっきも載せたファンの写真だが、ファンの外周を覆うケースは、見切れているが写真右側に続くシリンダーに空気を導くような形状になっている。が、一部が上の別のプラスチックのパーツと連結されている。このパーツはエアクリーナ―のカバーである。

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 カバーをずらすと確かに上のパーツへも空気を送り込むようにスリットがある。

ほかにエアクリーナーが空気を吸える隙間はない。

つまり、なぜか構造的にファンで空気を強制的に送り込むように作られている。

2ストロークエンジンの場合過給する意味はないはずだが(掃気時に排気ポートが同時に開くため、どれだけ気圧の高い空気を入れてもそのまま出ていくため)どういう意図なんだろうか。

刈払い機はいくつか見ているが、エアクリーナにこんな工夫をしたものは見たことがなかった。

チェーンソーをちゃんと見たのはこれが初めてなので、もしかしたらチェーンソー界ではメジャーなのか?

 

と思っていたらさらに疑問が出てきた。このファンは正面から見て反時計回りに回転する。シロッコファンと同じ構造だが、このキャブレター行きのダクトは、通常のシロッコファンが遠心力方向にダクトを設けてあるのとは完全に逆だ。

 

これでも吸気に正圧はかかるのか、そもそも吸気圧を上げる意味はあるのか、それともファンの後方から吸気を取りたいが吸気圧は上がってほしくないとかの理由であえてダクトを逆にしたのか。

謎は深まるばかりである。