ある日、走行中にスロットルを戻してもエンジン回転が落ちなくなっていることに気づきました。
路肩に止めて、キーをオフにしても、プラグコードを抜いてもエンジンが止まりません。燃料コックもないので、エアクリーナーの吸気口を手で塞いで何とかエンジンを止めましたが、明らかに異常です。
止まったエンジンをかけ直した直後はキーで停止できます。何度か試した結果、ある程度走行してエンジンが温まってくるとエンジンが止まらなくなるようです。
症状自体はランオンとかディーゼリングとかいうそうで、すすが溜まることなどが原因になるそうですが、ボアアップのためによくエンジンを開けているのでまだそこまで汚れてはいないはずです。
すぐ帰宅しようとしましたが、帰路の途中でエンジン音がディーゼルエンジンのような音に変わり、とうとうエンストしました。
再始動は可能だったので恐る恐る帰宅しヘッドを開けると、ピストン、ヘッド両方のエキゾースト側にクレーターがたくさんできています。ここに種火が残ったか、局地的に圧縮比が高い部分ができて自己着火したのかもしれません。
ピストン、ヘッドをノーマルに戻してもディーゼル音は治らず、最初は原因がわからなかったのですが、ふとこの車種はクランクベアリングの破損がよくあることを思い出し、クランクシャフトを揺すってみるとガタがありました。
ベアリングを外してわかったことですが、このクレーターはおそらく砕けたクランクベアリングのリテーナの破片か、外から入ってきてベアリングを破壊した異物によるものと思われます。
そういうわけで、初の腰下ばらし、ベアリング交換をした過程を備忘録もかねて記録します。
他の人が読んで参考にするには文字数が異常に多く、作業内容が端折られていたり意味のないこともたくさん書いてあるので使いにくいかもしれません。
途中でやめたくなるほど文字数が増大してしまい、膨大な時間を使ってしまったところを意地で書き切ったため、他人に伝わる文章になっているかもよくわかりません。
コメントをもらえれば覚えている限り補足します。
エンジン降ろし~分解
エンジンを下ろします。
フライホイールはテーパ軸にはまっているため、フライホイールプーラーを使って引き抜く必要があります。
アリエクスプレスでクランクケースセパレータとセットで売られていたものを買いました。
フライホイールプーラーはフライホイールにねじ込むネジの精度が悪く、そのままでは全く入らなかったのでやすりやカッターの刃でネジ山をこすってみたりして何とか入るようにしました。
クランクケースセパレータは写真中段のM8ボルトのネジ山が不良で使えなかったため手持ちのボルトを使いました。
さすがに吊るしでは使えないようです。
フライホイール、ジェネレータを外してボルトの位置を忘れないよう位置がわかるような絵を描いた紙に刺しておきます。
インマニ、リードバルブ、オイルポンプを外します。
オイルポンプは引っこ抜くだけで外れます。
クランクケースカバーのタップのうち、クランクシャフトを中心とした三点を選び、クランクケースセパレータのアダプタをねじ込み、クランクケースセパレータをセットします。
このまま中央のボルトを締めこむことでクランクシャフトを押してケースを引っ張ります。
外れました。
片側のケースが外れたら反対側にセパレータをセットし、同じようにクランクシャフトを押すことでクランクシャフトが外れます。
クランクシャフトが外れました。ベアリングは左右ともクランクシャフトについてきました。
噛み砕かれたベアリングのリテーナが出てきました。
ベアリングの玉は10個入りですが、ひとつも割れていませんでした。空回しすると引っかかりのある箇所があるので転動面か玉の表面がやられているのかと思いますが、玉はどうにもなっていないのに、どういう経緯でリテーナが破壊されるのでしょうか。
自力で壊れたのではなく、異物を噛んだのかもしれません。
ベアリングの取り外し
ベアリングを外すとき、クランクについてきた場合はベアリングはクランクウェブにほぼ密着しているので、ベアリングを抜くには外輪を掬い上げて引き抜くベアリングセパレータという特殊工具が必要になります。
ベアリングがケース側に残った場合は、ベアリングの外輪はハウジングにガードされてアクセスできないので、内輪にツメをかけて引っ張り上げるベアリングプーラーという工具が必要になります。
どちらの工具を買えばいいか、どちらも買わなくてはいけないのか、開けてみるまでわからないので、開けてから工具を買いました。
ベアリングはどちらもクランクシャフトについてきたため、メルカリでベアリングセパレータを買いました。
もちろんアリエクスプレスで買えますが、アリエクスプレスのものは送料と商品価格を足すとメルカリを超えたり、単純にメルカリの方が安かったりします。おそらく転売なのになぜ本場のアリエクよりメルカリの方が安いのかはわかりませんが、この手の製品はamazon、メルカリ、アリエクスプレスなどを見て価格と納期の都合がいいものを買うことにしています。
ベアリングを抜いていきます。
ベアリングの外輪に工具を当て、(左)
ナットを締めこんでいくと、クサビ状の工具がクランクウェブと外輪の間に食い込み、ベアリングが持ち上がってきます。(右)
締めすぎるとベアリングがはまっている軸まで挟んでしまい、引き抜くときに軸を傷つける恐れがあるので、工具の引っ掛かりがベアリングの外輪を引っ張れるくらいだなと思ったら締めこむのをやめます。
写真ではもう抜けていますが、付属のアダプタをねじ込んでH字型の部品の中央にあるボルトでシャフトの芯を押し、工具を引っ張り、ベアリングを完全に抜き取ります。
安物とはいえ流石専用工具という感じで、スムーズにベアリングが抜けて爽快です。
これは使わなかった小径ベアリング用のアタッチメントですが、肝心のベアリングをすくい上げるクサビの刃の部分が丸くなってエッジが利いていません。(写真左)
右はきれいです。使用限界になった鋳型のちょうど切り替え前後だったりして…
今回使った大径用は無事だったので事なきを得ましたが、大径用にもこういう不良がある可能性があるので、必要に応じてグラインダーなどで修正する必要があるかもしれません。
ベアリング打ち込み
ベアリングを外しましたが、交換部品をうっかり注文し忘れていたのでウェビックで注文したところ、あとから「ベアリングは欠品に気づいたのでオイルシールだけ送ります」と言われてしまいオイルシールしか買えませんでした。
ベアリングが再版されるまで一か月待ち、ひとまとめに送れば一回分で済む送料をもう一回払って、ようやくベアリングが手に入りました。
ようやくベアリングを打ち込めます。
TAIWANと刻印されています。純正はNTN製です。
ディオ系のベアリングは特殊な形状で外輪が厚く、耐久性が弱いといわれていますが、なぜこういう形状なのでしょうか。
変わったサイズにするにしても外輪を薄く、内輪を厚くすれば玉が入るスペースを大きくでき、一発でも多く玉を入れられれば多少は耐久性を改善できそうですが…
また、ベアリングの製造時に玉を入れる時、外輪を少し弾性変形させて入れるそうですが、この外輪の肉厚でうまくいくのでしょうか。有識者と話ができたらいろいろ聞いてみたいことがあります。
古いオイルシールをクランクケースから抜き、クランクケースを熱膨張させてベアリングをはめやすくするため、ケースをカセットガスバーナーで温めます。
放射温度計がないので、素手でクランクケースの端っこをつまみながらハウジングに炎を当て、つまんでいる指が熱に耐えられなくなるまで熱しました。
端っこが触れなくなるほど熱くなるということは、直火が当たっている部分は端っこより数倍は高温になっているだろうということです。
まずドライブプーリー側にベアリングをはめこみます。
慎重に入れるつもりでしたが、ベアリングをつまんで差し込もうとしたら、ハウジングのふちに当たって手が滑り、斜めにハマってしまいました。
急いで引っこ抜こうと思いましたが抜けず、このまま冷えてしまうとあらかじめ温めていた分、収縮したときにより強く噛みこんでしまうのでは?と考え、焦ってプラハンで水平になるように叩き込んでしまいました。
最終的に金属棒を外輪に当てて金づちで叩き(良くない方法)、とりあえず底まで打ち込むことができましたが、さっそくの失敗に先行きが不安になってきました。
とはいえとりあえずベアリングははまっているので反対側もはめ込んでいきます。フライホイール側のベアリングはもともと破損してはいませんでしたが、劣化具合がわからなかったのと、クランクケースを割るときにある程度玉に負担がかかってしまうのもあって、一応換えることにします。
まだクランクシャフトにはまったままだったので、ベアリングセパレータで引っこ抜きました。
フライホイール側にベアリングを打ち込みます。同じようにケースを温めベアリングをそっと落とします。次はうまくいき、落としただけで8割方はまっていきました。奥まではまっていないのが一番怖いのでこっち側も金属棒を当てて円を描くように叩き込みました。
叩いていくと音が変わったので座面に当たるまで叩き込んだはずですが、外輪の位置によって音の高さが微妙に違います。
ハウジングの裏側の形状が違ったり、床面に触れている部分も全面均一ではないからだと信じたいですが、見落としたゴミを噛んでいるのではないかと思うと安心できません。
もうどうしようもないので、無事にエンジンが組み上がり、その後問題がなければ上手く組めたんだと思うことにします。
まだエンジンが無事に組めるかもわかりません。
クランクシャフトの組付け
amazonで中国製のクランクシャフトインストーラーを買いました。
Amazonで買えば2900円、AliExpressで買えば900円+送料2000円です。
届いたものを確認してみると、三つのアタッチメントの中にクランクの左右のネジに対応したものがちゃんと入っていました。
ネジが切られてないという不良品もあるようなので注意が必要です。
試しにネジ込んでみると、タップが斜めに切られています。
まともに使うとツールでクランクを引っ張ったときに斜め方向の力がかかって良くなさそうですが、雌ねじも相応に甘いので、舐めない程度に数山だけねじ込んで、敢えてガタつくようにしておけば、そのガタで偏角が吸収できそうなのでその方法でやってみることにします。
そのほか、寸切りネジのスパナ溝にバリがあってナットが入らず、手直しが必要だったりしましたがとりあえず使えそうです。
プーリ―ケース側から入れていきます。
クランクシャフトインストーラ―は、クランクケースを支えにしてクランクシャフトの端っこを引っ張ることでシャフトをベアリングに圧入しますが、これはつまり玉を介して力を加えていることになるため、ベアリングにとっては良くないはずですが、新車の組み立ての際はどうしているのでしょうか。
参考にした動画ではベアリングをまずクランクケースに入れていたのでそうしましたが、ベアリングに負担をかけない組み方を考えるなら、クランクにベアリングをはめ込んでから、温めたクランクケースに引っ張り込むなどして解決しているのかもしれません。
サービスマニュアルには書いてあるのか、持っていないので想像しかできません。
コメント欄で教えていただいたところ、インストーラー本体をケースで支えるのではなく、オイルシール穴に通る程度のカラーを先に入れておき、ベアリング内輪を支えてクランクシャフトを引き込むらしいです。
内輪とクランクシャフト同士の摩擦力を内輪で支えるため、ベアリングには負担が加わりません。
このクランクを引っ張り込む作業でひとつ迷った点がありました。
普通?軸とベアリングのはめ込みは、軸のつけられた段差が内輪に密着するまでだったりしますが、クランクの左右の位置決めは軸の段差のように明確なストッパーがなく、クランクウェブとクランクケースの左右の隙間を適度に振り分けるだけのようです。
なので、ケースを割る前にクランクとケースの隙間が左右にどれくらいあるか測っておくのがよさそうです。
割る前に見なかった自分はよくわからなかったので、引っ張り込み過ぎて戻す必要が出ない程度に(クランクを引き抜くことはできないため)適当に入れました。
次に、合わせ面に液体ガスケットを塗り、ジェネレータ側のケースをはめ込みます。
この工程は雑にやると組んだ後に二次エアを吸う可能性があるので注意が必要です。
この時はその危険に気付いていなかったため、ホコリを念入りに落としてないケース同士をはめ合わせるときに落ちたホコリが塗布面に付いたりしました。
大きなものは取り除きましたがつまみ上げられない粉は諦めて組んでしまっていましたが、よく考えるとけっこうやばいです。ケースの平行度が狂う原因にもなります。
当たり前といえば当たり前ですが、下ろしたエンジンはきっちり掃除して、割った後の古いガスケットのカスなども落として作業しましょう。
もう一方のケースをはめ込んでいくときに
・ケースの取り付けネジを使ってはめ込んでいくか、
・インストーラーを使って合わせ面が接触するまではめ込んでいくか、
どうするか迷いましたが、ボルトがかかるまではインストーラーで引き込み、残りはボルトを均等に締めこむことで組み立てることにしました。
ボルトの長さには一つ一つ違うので、位置がわからなくならないよう、あらかじめ段ボールにクランクケースの絵を描き、ボルトを差し込んでおきました。
クランクウェブとケースの隙間が均等にはなりませんでした(右の方が少し広め?)が無事にクランクケースを閉めることができました。
クランクケースの段差が気になりますが、分解前に撮った写真でも同じくらいずれているので問題はありません。鋳物の寸法誤差でしょう。
ケースには位置決めピンがあるのでやたらにずれることはありません。
インマニの取り付け面はたぶん共削りされた切削面なので、インマニを締めつけて左右の削り面のツラを合わせることで位置決めするのもいいかもしれません。
オイルシールとジェネレータの組み付け
オイルシールをはめ込みます。キズ防止になるかわかりませんが滑らかに入るようにリップ部に2ストオイルを塗って入れてみました。
オイルシールの上面とクランクケースのボスの端面がツラになるまで入れます。
当て面はないので入れただけ入ります。
ジェネレータはネジ止めするだけなので簡単です。
フライホイールははめ込んで、ナットを既定トルクで締めることで固定します。
ファンを取り付ける雌ねじにボルトをねじ込んで、お手製プーリ―ホルダーで回り止めし、トルクレンチで締めこみます。トルクはググったところ4kg・mらしいです。
エンジンの載せ直し
オイルポンプのシャフトを差し込んでポンプ本体を取り付けます。
先端にはネジ状の形状ですが、特になにか位相を合わせたりする必要はなく、オイルポンプを上からはめ込むだけです。多分これはねじ歯車かと思います。
後ほど、オイルは問題なく送られていることを確認したので組み方に問題はなかったはずです。
オイルポンプ、インマニ、シリンダ周りを取り付けてあらかた組み上がりました。
ケース合わせ面の液体ガスケットが硬化するまで24時間程度待つ必要があります。
エンジンを載せるのはそれほど手間ではありません。
下ろすとき、コネクタやホース類は「付くところにしか付かないから記録はいらない」
と思ってはっきり記録は残しませんでしたが、おおむねその予想は間違いなく、組み直しができました。
エンジンの始動を確認し、稼働中にクランクケース合わせ面にパーツクリーナ―を吹いたりして見ましたが二次エアは吸っていませんでした。
もし気密に問題があればもう一度ばらす羽目になるので不安でしたがひとまずはなんとかなったようです。
これで、「クランクケースの分解、組み立てができる」という実績を解除しました。なかなかここまでやる人はいないでしょうから、どこまで整備できるか?という話題になったら(ならないですが)イキることができます。
あとは早期に問題が出ないことを祈るばかりです。
後日、スーパーユーロコルサを付けて数キロテスト走行しました。
10000rpmまで回してスピードメーターが振り切るところまで試しましたが、
特に異常も感じられなかったのでおおむね問題なかったのかなと思います。
この作業にかかった金額は、
KN企画クランクベアリング×2・・・¥2000
KN企画オイルシール左右×1・・・¥1007
クランクケースセパレータ+フライホイールプーラ・・・¥3842
クランクシャフトインストーラ・・・¥2970
ベアリングセパレータ・・・¥5480
パイロットベアリングプーラ・・・今回は必要なし
計¥15299
正直、作業時間も含めるとお勧めできる金額ではありません。誰かに工具を借りられるなら部品代だけになるのでやってみてもいいかもしれません。
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ボアアップキットはオシャカになり、ベアリングが届くまでの空き期間でブレーキにも問題を見つけてしまったし、タイヤももう交換しなくてはいけません。
ここからさらにいくらかかるのか…?