ANYCUBIC Vyperを買った話+Kobraとの比較


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ANYCUBIC Vyperを買いました。

発売からだいぶ経っているのでレビューとしての価値はあまりないなあと思いつつこの記事をさあ投稿しようとした矢先、新型のKobraが発売されました。

せっかくなので、比較でもして記事に価値を付けようと思います。

マムシ vs コブラ

スペック比較

めぼしいスペックを表で比較しました。

  Vyper Kobra
エクストルーダ方式 ボーデン ダイレクト
案内方式 V溝+ローラ V溝+ローラ
Z軸駆動 ねじ送り(2本) ねじ送り(1本)
フィラメント位置 側面 上部
造形サイズ 245*245*260 220*220*250
ノズル温度[℃] 260 260
ベッド温度[℃] 110 110
最大印刷速度[mm/s] 180 180
ノズルサイズ 0.4 0.4
タッチパネルサイズ 4.3 4.3
オートレベリング点数 16 25
金額[$] 359 299

 

有利かな?という項目は黄色で塗りつぶしています。

スペックに大きな違いはないので、Vyperを廉価にしつつ、後発な分改良したという感じなのかなと思います。

上位互換でなくて安心しました。

オートレベリング

オートレベリング点数はKobraの方が多く、金額も安いです。

が、Vyperのように左右の送りねじによる調整ができないので、正確に測れても造形にフィードバックしきれるのかという疑問はあります。できてしまうのなら逆にVyperが送りねじを二本持っていることの意味が問われますが…

Kobraの公式Youtubeでの紹介動画を見たところ、Vyperのタッチセンサはノズルと一体ですが、Kobraはタッチセンサを別で持っているようです。

エクストルーダ方式の違いによるものでしょうか。

エクストルーダ

エクストルーダ方式は機械の剛性さえあればダイレクト方式にしない手はないと思っていますが、案内方式やローラの配置にも大きな違いはなく、フレームの断面サイズもおそらく同じであることから剛性は同じくらいと予想されるため、優劣はつけきれません。しかし、フレームが同じならKobraの方がコンパクトな分頑丈ともいえます。

どちらもTPUは印刷できますが、その場合はKobraのほうが良い結果が得られるかもしれません。

フィラメント配置

Kobraはフィラメントの配置が上なのは良いところではないでしょうか。

Vyperは側面配置ですが、フィラメントがだいぶ幅を食うため、スペック上の機械の横幅は500mm強でも実際に設置スペースの幅は800mmは必要になります。

高さに制約にある場合は優劣が入れ替わりますが、タテのスペースの方が有効活用はしにくいと考えられるため、フィラメントが上方空間を使うのは理にかなっているように感じます。

さらに、Kobraはダイレクト式で、ボーデン式よりはフィラメントの配置も自由度がありそうなので、取り回しに気を付ければ側面や背面に移動することもできそうです。

Vyperのレビュー

ハードウェア

フレームの構造

部品は大きく土台と門型フレームに分かれています。

門型フレームは組み立ての際に必要とあらばダイヤルゲージに久しぶりの出番を与えようと思っていましたが、柱がはまる部分のフレームにはきちんと溝が切られていてボルト穴の余裕分遊んだりしないようになっています。すきまもほぼないので仮に直角度が狂っていたとしても調整代がないためそのまま組み立てました。

土台の左右のフレームにずれがあればその通りに組み立つことになりますが、過剰にずれていれば溝に対してフレームがそもそもはまらないでしょうからその心配はしなくて良さそうです。

直動機構

直動ガイドはアルミフレームにV溝が切られていて、面取りされたローラが走行するしくみです。

Vローラーの調整にはカムボルトが使われていて、締めるとローラーとV溝の間の遊びを減らして与圧をかけることができるため、剛性を発揮できます。

Y軸、Z軸のフレームはある程度の太さがあるため、リニアブッシュよりは構造上の剛性がありそうです。

別の3Dプリンタには片持ちのリニアガイド式のフレームもよく見ます。リニアガイドの許容荷重と剛性は圧倒的だと思いますが、門型の優位性で張り合えそうです。

駆動はX軸、Y軸がタイミングベルトで、Z軸は柱の両側で二本の台形ねじが使われています。

オートレベリング

はじめに、オートレベリングをします。テーブルの17点の高さを取り、テーブルのレベル出しをします。テーブルの四隅を上げ下げして物理的に平面を出すのではなく、Z軸の制御でテーブルに平行になるようにノズルを動かすらしい?です。

Vyperのノズルにはタッチセンサがついていて、外力が加わるとセンサーがオンになります。指で触るとエクストルーダカバーの中で内側の赤いLEDが点灯するのが見えます。

開始すると、液晶に「ノズルを触れ」という旨のメッセージが表示されます。

ノズルを触ってタッチセンサが反応することが確認できるとオートレベリングが開始されます。

おそらくセンサが壊れていることに気づかずに開始するとベッドにノズルを無限に押し付けることになり、破損の危険があるためでしょう。

Amazonのレビューでこれを初期不良と決めつけて星1を付けている人がいました。

購入前にそのレビューを見ていたせいで、自分も「あっ、あのアレだ!」と思いこんでしまい、画面の説明をろくに読まずに試行錯誤していましたが、その途中でノズルに触ってLEDの点灯を確認したことにより偶然オートレベリングが開始したため、手詰まりにはならずに済みました。

ノズルを触る手順が必要なことを知ったのはオートレベリングが終わった後いろいろ調べた後でした。そんな時間をかける前に、おとなしく機械の表示を読めばそれで済んだのですが…

いまどき、最悪英語力がゼロでもスマホで画面を撮ればGoogleグラスが翻訳してくれます。

プリント(ちょっとPLA+PETG)

とりあえず、付属のPLAフィラメント10mで、付属のSDに入っているフクロウのGコードを印刷しました。

今までABSフィラメントで使っていた3Dプリンタ(2011年のもの)とは材質の違いもありますが当然のごとく段違いにきれいです。

テーブルからの剥がしやすさも良い感じです。低価格化も含め、時代の進化を感じます。

Vyperの初フィラメントにはPLAより高強度、ABSより造形性が良いらしいPETGを選択しました。

理由としてはヘルメットのバイザー留め具の部品を作ったとき、PLAで作ったものはクリープ変形ですぐにゆるくなってしまったのに比べ、ABSのものは全く問題なかったことからPLAの実用性に疑問があったことと、かといってABSでプリント成功率があまりに低かった場合に新3Dプリンタへの愛情が薄れてしまう懸念があったためです。

PLAはテスト用の10m分しか使っていないのではっきり優劣はつけられませんが、PETGもなかなか悪くありません。PETGで面積が広く高さが低いモデルを造形すると、やはり反りによって角がベッドから剥がれてしまうことや、糸引きが目立つということはありますが、外観が機能となるフィギュア的なモデルを造形しないのなら問題ない範囲です。

3Dプリンタで低品質な造形の許容量は鍛えられている自負があるので、多少のことでは動じません。

2023/4/1追記

Vyper購入から11ヶ月をかけて、1㎏を使い切りました。

フィラメントの防湿対策などはなにもせず、ホルダにひっかけておいただけですがフィラメント詰まりなどの問題は全く起こりませんでした。

99%は機械部品で、複雑で大きな形状は造形していませんが、造形品質に問題は感じられませんでした。

フィラメントに大きな価格差や何か特筆すべき優位性が見つからない限りはPLAを使うことはないと言えるレベルだったといえます。

PLAとPETGの比較

付属のSDカードにはテストプリントのためのフクロウのSTLデータが入っているため、上述のPETGで同じものを印刷し、PLAでテストプリントしたフクロウと比較してみました。

条件は以下の通りです。

PLA

ベッド温度:60℃

ノズル温度:200℃

スライサー:不明(あらかじめ入っていたGコードを使っているため)

PETG

ベッド温度:90℃

ノズル温度:250℃

スライサー:CURA

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左がPLA,右がPETGです。

PETGの方が陰影がくっきりしているのは写真写りではなく見たままです。

材料の色の透明感の差のようです。

あまりベンチマークに適したモデルではありませんが、

比較したところディテールの細かさに大きな差はありません。

オーバーハング部の垂れ具合なども大きく差はありません。

耳の部分の糸引きは大きな差でPETGの特性らしいですが、除去すれば大きな問題にはならないでしょう。

そのほかPETGに目立つのはインフィルの外面の内側に接した部分がミミズ腫れのように表面に出てきているところです。(後述のモニタブラケットの写真右上のパーツに縞模様ができているのも同様の症状です。)PLAのインフィルパターンは見逃したのでプログラムがどうなっているかわかりませんが、少なくとも外観にこのような傾向はありません。

インフィルの都合なら、CURAで言う”ライトニング”パターンのインフィルを使えば内側にランダムに接するパターンのため、改善が見られるかもしれません。

プリント(ABS)2023/04/01追記

購入から一年弱を経て、ようやくPETG一巻き1㎏を使い切ったので、

次のフィラメントには同じブランドOVERTUREのABSを用意しました。

PETGに特に不満はありませんが、ABSが問題なく印刷できるなら数値的な根拠はありませんがABSのほうが機械的性質が勝る気がしているのでABSを使いたいです。

また、旧プリンタはABSしか印刷しておらず、その低品質を味わいつくしたので新プリンタでもABSを印刷して、Vyperの性能とやらを見せてもらおうかという気持ちもあります。

PLAとPETGとABSの比較

前回同様、フクロウをまずは印刷して比較してみます。

PLA、PETGのフクロウはPETGのときに印刷したものを残しといたものです。

ベンチマーク用のモデルを造形したほうがよかったかもしれませんがいまさらなのでフクロウでいきます。

PLA

ベッド温度:60℃

ノズル温度:200℃

印刷速度:不明

スライサー:不明(あらかじめ入っていたGコードを使っているため)

PETG

ベッド温度:90℃

ノズル温度:250℃

印刷速度:たぶん60mm/s

スライサー:CURA

ABS

ベッド温度:100℃

ノズル温度:260℃

印刷速度:60mm/s

スライサー:CURA

すべてラフトは使っていませんが、何事もなく出力できました。

黒いフィラメントを買ったので見づらいですが表面の品質はどれも違いは見られませんでした。

糸引きはPETG>ABS>PLAという感じです。

左:PETG、右:ABS

反りはやはり強かったです。スケールを合わせるとPETGは反りは全く見られませんでしたが、ABSはストレートエッジがなくても反りに気づけるほどには反っています。

細長い造形物は大きく影響しそうです。

冷却のため、造形後一時間ほど放置していましたが、時間がたつにつれて不意に「メリ…パキ…」という音がしており、ベッドから剥がすときもあまり抵抗なく外せました。

あとは実用で不満が出ないかを確認していきます。

改造

角度調整式モニタブラケット

設置位置が小高い棚の上なので、ベッド面が目の高さと同じくらいになります。

標準のモニタブラケットは45度固定なので、角度が浅く見づらいです。そのため、角度調節のできるモニターブラケットを作りました。

材料はPETGです。


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軸はM4ボルトです。

3Dプリンタ使いたるもの3Dプリンタ製部品のみで完結する構造を取るべきかと思いましたが、あまりいい形状が思いつかなかったのでやめました。


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角度は寝かす方は水平までいけますが、起こす方はケーブル長さが足りないので右の写真で限界です。取り付け位置を純正部品とあまり変わらないようにしていますが、もっとモニターを奥にすればケーブルの余裕が取れて角度を立てられるでしょう。

トラブル

ホットエンド異常 Hotend NTC abnormal.

買った日の次の夜、プリントをしようとすると、

Hotend NTC abnormal.Please power off then check it and wiring.

というエラーメッセージが出て操作が効かなくなりました。

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おとなしく機会に従って電源を切り、配線をチェックしましたが問題はなく、再起動しても同様のエラーが発生します。プリントだけでなく、ノズル、ベッドの手動での加熱をしようとしても同様のエラーを吐きます。

フォーラムを見たところ、寒い場所に置いているとセンサ異常と誤認識してしまうことがあるようで、私の場合はまさにその状態でした。

後で気づきましたがANYCUBICのVyperのページにも周囲動作温度が書かれていました。

8℃~40℃が周囲動作温度となっています。

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エラー発生時の温度の表示は一桁台の温度で、ヒートガンでベッドとノズルが10℃台くらいを表示するまで温めたところ手動での加熱が可能になりました。温度の上昇が確認できたためそのままプリントに移行しましたが、無事に出力が始まったので一安心しました。

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手ごろなヒーターがヒートガンしかなかったためヒートガンを使いましたが、あまり局所的に温めて配線やカバーを傷めないように十分距離を離すか、ドライヤーなどの比較的マイルドな熱源でゆっくり温めるように気を付ける必要があります。