ありものでトルクレンチの校正をする方法

トルクレンチのロックナットが緩み、設定値がデタラメになってしまいました。

そこで、手持ちの工具と上皿天秤で校正装置を作り、校正を行いました。

必要なものはいくつかの工具と適当なサイズの鉄パイプと軸受けで、
自作が必要なものは軸受けだけです。
と言っても、材木にドリルで穴を空けただけのものなので電動ドリルさえあれば誰でも作れます。

必要な工具も、トルクレンチを持っている人は大抵持っているようなものです。

 

引張りばねばかりを持っている人はもっと簡単な測定方法があるので他の人の記事を読むのがいいでしょう。

だいなしのトルクレンチ

グリップ兼トルク設定ダイヤルの下にある、六角ナットのような部品がある日緩んでしまいました。

右の黒いのが緩んだ部品

 

今回はこのナットが緩んだ状態でグリップを回してトルク設定をしようとしたため、グリップだけが回ってしまい、表示値に対してスプリングの与圧量が合わなくなってしまいました。

初めは仕組みを把握できなかったのでよくわからずに動かしているうちに、グリップに対して中のネジを動かすことでクリックの発動トルクが変わることに気づきました。
このころには明らかに設定値に対してクリック時の手ごたえが変わってしまっていたため、校正が必要となりました。

詳細は後述します。

自力での校正

買値は3000円以下のため買いなおそうかとも思ったのですが、
おそらく回復可能な現物があり、新たに買いなおすことで現状以上の機能や価値を生み出せないという状態で新品を買いなおすことに、我が大蔵省は予算を承認しませんでした。

静的なトルクを測定するだけなら何かで荷重を測ればいいだけなので、構造としては大したことではありません。
構造自体はすぐに思いつくのですが、測定アームなどのパーツを自作しなければならないというところまでしか具体化できていなかったためコストが割に合いませんでした。
3000円以下のトルクレンチを買いなおすよりも低コストな方法でなければ意味がありません。


なるべく労力をかけずに構成する方法を考えていたところ、ふと思いついたため実施しました。
おそらく、精度は個人で使うには十分ではないかと思います。

測定装置の構築

必要なものは下記のとおりです。

  • 10mmの六角レンチ
  • 10mmのソケット
  • 六角レンチががたつき少なく収まる内径を持つ鉄パイプ(1m前後あるとよい)
  • 適当なエクステンションバー(軸)
  • 材木(もしくは軸受けになりそうなもの)
  • 上皿天秤
  • クランプ
  • しっかりした台
  • アームの長さを測るためのコンベックス、あるいはスケール
  • 水平器(なくてもよい)

軸受けの製作

軸受けだけは前述のとおり作らなくてはなりません。

エクステンションバーの軸径が11.5mm程度だったので、軸受けは余った材木に12mmのドリルで穴を空けただけのものです。
軸受けの精度や滑らかさはアームやレンチが自重で回らないほど軸が渋くなければ、そこまで必要ありません。

軸の保持精度はアームがある程度まっすぐ回ればよく、
軸受けの食うトルクに対しては測りたいトルクが十分大きいからです。

ただし、エクステンションバーは長めで、軸受けの支点間距離も長めに取った方がいいと思います。

支店間距離が長いほど軸受けの精度に対して軸のがたつきを減らすことができ、
軸のがたつきが減れば軸がこじって加える力に対して指数関数的に増えたり、
軸ががたつくとレンチに加えた腕の力がトルクとしてではなく、平行方向の力として天秤に現れることを防げるためです。(多分。イメージ的に)

組み立て

土台に芯を出して設置し、クランプで固定します。
多少高さにずれがあって軸の回転を渋くしていたので、シムを入れて高さを合わせたり、バーに油を塗ってみたり、可能な限りの調整はしています。

軸受けにエクステンションバーを保持し、

エクステンションバーの先には10mmのソケットを取り付けます。

10mmのソケットに六角レンチを差し込み、
六角レンチには鉄パイプを差し込みます。

鉄パイプを水平になるように高さを調整して、鉄パイプの先を上皿天秤に置きます。
エクステンションバーにトルクレンチを接続すれば、トルクレンチに加えた力が上皿天秤の荷重として表示されるというわけです。

 

つまり、このようになります。

トルクレンチをエクステンションバーに取り付ける前に上皿天秤をゼロリセットし、
アームの重さ分を無視するようにします。

 

トルクレンチを水平にして手を離すと、上皿天秤は数十グラムを表示しています。(レンチの自重が発生する程度のトルクが現れる程度には軸受けのすべりが確保されている)、トルクレンチの軸が遊ぶまで手で支えると数値がほぼ0に戻ります。
こんなもんでいいでしょう。

 

その辺にあったパイプを使ったところ軸芯からパイプの先端までは750mmだったので、
荷重からトルクを計算するにはこの長さを考慮する必要があります。

腕の長さがちょうど1mならばより簡単です。

目標値の計算

このトルクレンチは最大25N・mのものです。
最も合わせたいのは、シリンダヘッドボルトを締めるときの10N・mなので、
このときの数値が目標値になるようにします。

トルクレンチの設定値とアームの長さから、上皿天秤の目標表示値を求める式は次のようになります。

 \displaystyle m = \frac{T}{9.81L}

ここで、

  •  T :トルクレンチの設定値(N・m)
  •  L :回転軸中心から天秤との接触点までの距離(m)
  •  m :上皿天秤の目標表示値(kg)

例えば、トルクレンチを10 N・mに設定し、アームの長さが0.75 mの場合、

 \displaystyle m = \frac{100}{9.81 \times 0.75}

 \displaystyle m \fallingdotseq 13.59\ \mathrm{kg}

したがって、上皿天秤が約13.6 kgを示したときに、トルクレンチがクリックするように調整します。

トルクレンチの設定

このトルクレンチについて言えば、グリップに対して中のネジを締め具合を変えることで変更できます。

もう一本のトルクレンチも安物ですが、外観を見る限りは同じ構造でした。
よくある形なので、だいたい同じ構造でしょう。

なんとなく、安価なものはグリップごと回して設定値を変え、それなりのトルクレンチはグリップエンドのつまみだけを回す造りなイメージがあります。

グリップの中にあるネジがトルクレンチ内のスプリングにプリロードを掛けているらしく、

ロックナットが締まっていればグリップと中のネジが一体となり、グリップと一緒に中のネジが回りますが、

ロックナットが緩んでいると中のネジに対してグリップだけが空回りする格好になります。

これ=中のネジ

 

写真を撮るのを忘れて、ロックナットを締めて合いマークをつけるところまでやってしまったのでイラストで説明します。

グリップの端面に対して図の部分のねじ込み量を増やせば中のスプリングが縮められ、クリック時のトルクが上がります。
内部のネジは二面幅などがなく、どうやって回すのが正しいか分かりませんでした。
自分の場合は、トルク設定目盛を10N・mに合わせたまま、中のネジを指でつまんで回すことができたので、これでねじ込み量を変えました。

 

これはトルクの小さいレンチなので上記の方法が可能でしたが、大トルクのレンチだと指でつまむくらいでは固くて回せない可能性があります。

中のネジが回せなくてもグリップは空回りするのでねじ込み量は変えられるのですが、グリップを回すと表示値が変わってしまうため、ロックナットを締めて表示値をもとに戻して試し、ずれていればまたロックナットを緩め、グリップを回し、ロックナットを…と面倒です。

 

とにかく、10N・m設定のときにだいたい13.6㎏程度にクリックすることを確認したあと、
確認として20N・m設定では倍くらいの表示になることが確認できました。
ロックナットを締めて、もう一度確認したら校正完了です。

なにか正確そうなもので答え合わせをしたいところですが、もう一本持っているトルクレンチは設定範囲が重なっていないため使えません。

まあでもおそらく大丈夫でしょう。